IT技術を活用して有権者が個々の政策に対して直接投票して意思表示するのはどうか?という発想から、今後いくつかの記事に分けて次の内容について考察していくこととしました。
(1)ITを活用した直接民主制のデメリット
(2)直接民主制のデメリットを克服する制度案
(3)そもそも投票率が上がらない本当の理由
(4)ITを活用した直接民主制が実現しない理由
(5)これからの議員に求められる本当の役割
(6)選挙がインフルエンサーの遊び場になってしまった理由と解決策
前回は(1)直接民主制のデメリットと、(2)それを克服する制度案を検討しました。今回は、順番が前後しますが上記の(4)ITを活用した直接民主制が実現しない理由について考察します。
直接民主制を実現するためには国会なり地方議会なりで選挙制度の改正法案を出さなければなりません。そのためには誰かがこの法案成立によって利益(金銭的な意味での利益だけではなく、誰かの安心に繋がるとか、義心が満たされるとか、逆に虚栄心が満たされるとかいうものでも、それが実際の行動に移すだけの動機となり得るものであれば何でも良い)を享受する必要があります。人は打算的な生き物で、自分にとってメリットがあると思えるものでないと行動しないものです。
今回の場合、利益を享受するのは直接自分の意思を反映した政策を実現して欲しいと思っている人でしょう。ただ、その思いがある程度強い人は既に党員とか、党友として既存政党の中に組み込まれていることが多いわけです。
そこまでの意欲はないけど、自分の意思がより正確に反映された行政運営がなされることを望む人は、いわゆる「サイレントマジョリティ」と言えるかもしれません。マジョリティなんだから、その人たちが喜ぶ政策実現行動をする議員がいるのではないか?と思う人もいるかもしれませんが、サイレントマジョリティの結束は非常に脆く、その時々で感情が変わります。選挙で言われる「無党派層」あるいは「風」といわれるものです。制度改正の瞬間は支持を得られるかもしれませんが、改正が終わったとたんそれまで自身に向けられていた支持は霧散するでしょう(個々で意思表示出来るようになったから)。つまり、無党派層の利益になるような行動をしたとしても、彼らは組織化されていないので、その議員に対する岩盤支持層にはなり得ません。岩盤支持層というのは、どんな状況下でも自身を支持してくれる層のことです。
むしろ今回の改正案は既存の政党や議員の権力を相対的に弱める(正確には名もなき市民たちの声を連ねて権力を持たせるという方が良いかもしれません)方向に改正するものなので、自身の岩盤支持力を低下させることにも繋がりかねません(今まではいくつか反対の考えがある議員でも、おおよその考えが同じ方向であれば支持してくれていた人が、個別に意思表示するようになることで、議員を支持してくれなくなる可能性がある)。なので、そんなことをする議員は現れません。
実現することがあるとすれば、現行の選挙にかかるコストを負担しきれなくなり、デジタルに頼らざるを得なくなるとき、または希望的観測を込めて述べるとすれば、行政の側で現行制度のままでかかる選挙のコストと、改正した場合に想定される選挙コストを算出し、その周知を受けて熱狂的にサイレントマジョリティが立ち上がるときでしょう。
いずれにしてもこうした想定が実現するのはかなり先の話になりそうです。
次回は(3)そもそも投票率が上がらない本当の理由について考えてみたいと思います。