前回の記事で岸田さんが麻生さんから牽制されたと書きました。総理総裁経験者のその後のキャリアとして「キングメーカー」があります。意中の人を総理総裁につけ、相談役的な立場で政界に影響力を持つ。麻生さんや菅さん、二階さん、政治家を引退してもなお力を持つとされる森さん辺りが、キングメーカーの座を賭けてしのぎを削ることになるわけです。
もし安倍さんが銃撃されずに存命であったなら...キングメーカー争いも安倍一強で収まっていたのかもしれません(森さん、麻生さん、菅さん全員と関係を持っている安倍さんであれば、彼らのバランスを取りながら後継指名していくことができたのではないか?、と思っています)。逆に言うと安倍さんがいなくなってしまったからこそ、老体に鞭打ってという言葉が自然と想起されてくるような森さんが、自ら表舞台を張っていると思えなくもないのです。
そんな中でキングメーカーを目指す岸田さん。どのような戦略を描いているのでしょうか?
現時点で見えているのは林さんを擁立して総裁選に臨もうとしていたということです。現政権を支える筆頭者であるべき官房長官が総裁選に立候補するためには、現総裁である岸田さんが不出馬を明言することは必須要件であるため、岸田さんと林さんで岸田総裁次期総裁選不出馬→林官房長官出馬シナリオは共有されていたと考えられます。
従来の派閥政治であれば岸田派はそのまま団結して総裁選を迎えるということになるはずでしたが、派閥が解消されたことにより上川さんも出馬に意欲を見せています。恐らく岸田さん・林さんは上川さんは出馬しないと見ていたのではないかと思いますが、一方の上川さんは「その時」に向けて、虎視眈々と準備してきたというところではないでしょうか?
2024年1月、麻生さんが福岡県内で行った講演の中で、上川さんの能力を評価する場面がありました。その内容にルッキズム的な要素があり、麻生さんへ批判的な報道がなされました。その際上川さんは「どのような声もありがたく受け止める」等と回答して問題視せず、受け流す姿勢を見せました。受け流すという対応について、上川さんへの批判も一部ありましたが、大勢としては本人が受け流したことにより報道は鎮静化しました。
麻生さんは当初から上川さんの実務能力は評価していました。さらに自身の舌禍による炎上もうまい立ち回りで回避してもらったことになり、上川さんへ恩返ししておきたい意向もあるでしょう。上川さんだけを応援するということにはならないでしょうが、麻生派内で絶対的な候補者がいない状況もあり、麻生派から推薦人を貸し出す可能性は大いにあるといえます。上川さんサイドもその辺りの目処がついているのでSNS等で急に自身のアピールを始めたというところではないでしょうか。
さて、岸田さん。上川さんは立候補を目指さないという思惑は外れました。林さん・上川さん両氏が立候補を模索することになり、岸田派の結束は乱れています。また、派閥外で現状表立って林さんを支持する理由がある勢力も見当たりません。下手すると林さんは推薦人集めに失敗し、立候補すらできない状況に追い込まれるかもしれません。こうなるとキングメーカーを目指す岸田さんの野望も潰えることになります。頼みの綱は二階派辺りですかね...小林さんは元々二階派でしたが、旧安倍派との距離を急速に縮めており、反動で二階派からの支持は得にくい状況と見ます。
小泉さんの背後には菅さんがガッチリついており、今から二階さんが小泉さんを支援しても、小泉さんに与えられる恩義は菅さんより小さくなってしまいます。
状勢を見極めて小泉さんが優勢と見れば勝ち馬に乗る形で二階派も小泉さん支持、混沌とする状況なら支持勢力が不安定な林さんを支えることで総裁選後の見返りを求めていく可能性はあるかなと思います。
岸田さんとしては何とか混沌状況を作り出し、林さん支持勢力を固めて可能性を残しつつ、二階派あたりを巻き込んで対抗できるかが序盤のポイントになってくる気がしています。