沈思黙考

日常の疑問から巡る思い

自民党総裁選の序盤動向を読む(6)石破さんは「嫌われ続ける力」が足りない

先日立候補を表明した石破さん。今回が5回目の挑戦となります。「三度目の正直」という言葉がありますが、1回目、2回目の失敗を乗り越えて創意工夫を重ね、いよいよ3回目に物事を成したときに使われる言葉です。過去を振り返りご本人の言う「集大成」としての言動を期待していましたが、残念なことが起こりました。

 

裏金議員への対応について、立候補宣言時は「厳しく臨む」と明言したのに翌日には「新体制になったら決める。予断をもって言うべきではない」と一気にトーンダウンしました。

裏金についての疑惑があった議員は80人近くいます。それに対して「厳しく臨む」と明言することは、彼らからの支持は得られなくなることを意味するというのは、小学生でも丁寧に説明すればわかるレベルのことだと思います。それをあえて明言したところに個人的には期待感を持っていました。さらに言えば、それを明言しても総裁選に勝てると認識している=それだけ裏金疑惑のない議員達の支持を固められているということだと思って、少し驚いてもいました(これだけの乱戦模様なので「勝てる」と思えるだけの票をまとめるのはかなり大変だと思っていたから)。

ところがそれをたった一日で自らひっくり返してしまったのです。考えられる理由としては次の通りです。

1そもそも「厳しく臨む」という発言がそこまで大きな反発を生む発言だと思っていなかった。

2それなりに反発を生む発言だと覚悟した上で発言したものの、こんなに大きく報じられ、ここまで反発が出ると思っていなかった。

3国民感情に同調する形で、有耶無耶にすることはできないという意味(何らかの検討はするという意味)で発言した「厳しく臨む」が厳しい処分を下すという趣旨にとらえられてしまったことに慌てて軌道修正しようとした。

 

1であれば、言葉を生業として言葉で人々を巻き込んでいく政治家という職業はふさわしくないと思います。自らが発する一言一言に日頃から神経を集中させる、ましてや「厳しく臨む」と発言したのは自身の立候補宣言時ですから、言葉の端々にまで全神経を集中させてしかるべき場面です。その時に世間の受け止め方を全く読み違えた発言をしたということになりますから政治家にはふさわしくない。

2であれば、政治家でありながら同じ政治家の気持ちすら理解できていないということになりますから、そのような人のもとに優秀な人が集まってくるとは考えにくい。更に、覚悟をもった発言だったとしても、一日で翻せるような覚悟しか持てないのであればやはり政治家にはふさわしくない(そういう意味では、反対の大きな声がありながらもワクチン接種やマイナンバーカードを推進する河野さんの実行力は高く評価されるべきだと思います)。

3であれば、一国の代表が務まる器ではないと思います。総理となれば一挙手一投足が常に注目され、ふとした発言が大きなインパクトを持つことだってあります。もし総理になったあとに、今回のように思惑と違うインパクトを与えてしまったとき、石破さんがどのような行動をとるのか、今回の件で露呈したように思います。恐らく朝令暮改的に反射的に打ち消しにかかる。それでは迷走と揶揄された岸田さんと同じです。「すぐに打ち消されるかもしれない」と思ったら、その下で仕事をする人たちは梯子を外される可能性に怯えながら仕事しないといけなくなってしまうので、仕事に没頭することができません。

 

個人的には3の可能性が一番高いかなと思っていますが、一連の動きを通して言えることは「石破さんは嫌われ続ける力」が足りないということです。

嫌われるというのは、相手が「これはやってほしくない」と思うことを徹底的にやるから嫌われるんだと思います。その相手からは嫌われますが、その相手のことを嫌っている人からは逆に熱烈に好かれたりするわけです。

今回の場合に当てはめると、石破さんと裏金議員と国民が登場人物です。石破さんは裏金議員に対して「厳しく臨む」と発言しました。裏金議員達は当然嫌がるけども、裏金議員を厳しく処分してほしいと願う国民からは評価されました。ところがすぐに自身の発言をトーンダウンさせてしまう。こうなると裏金議員達は「とりあえず良かった」と思いますが、だからといって石破さんをすぐに積極的に応援する勢力になるかといわれれば当然そんなことはありません。いつまた裏金議員達を攻撃してくるかわからないですからね。そして、一度は石破さんを評価した国民は「やっぱり石破さんは自分達の期待する行動はとってくれない」と応援するのをやめてしまう。こうして石破さんの周りには誰もいなくなる。

敵の敵は味方」という言葉もある通り、敵をひとつに定めてずっと敵対してくれていれば、その姿勢を高く評価する人も現れるわけです。自民党をぶっ壊すと言って総裁の座を射止めた小泉さんはまさにそのやり方でした。郵政民営化でも反対勢力を敵と定めて、刺客候補まで送って国民の思いに応えることで人気を維持してきたのです。

 

「集大成」として今回の総裁選に臨む石破さん。最初からこの調子では先が思いやられると感じるのは私だけでしょうか。