自民党総裁選立候補者の石破さんが、自らが総理総裁となった暁には金融所得への課税を強化すると表明し、裏金対策のトーンダウンに対する落胆の声続き、各方面から批判的な声を受けています。
「貯蓄から投資へ」という掛け声のもと、政治主導で国を挙げて投資を推進し、新NISAやiDeCoなどの新制度によって、これまで投資には縁がなかった人達を投資の世界に引きずり込んでいます。岸田さんが同様の主張をした前回総裁選の時以上に、金融所得に関する当事者が増えているという状況下で、金融所得課税強化への言及は慎重に行うべきでした。案の定「取れるところから税を取るつもりか」とか、「庶民を見ていない」といった批判が噴出しています。
小林さんはそうした声を瞬時に察知し、「中間層の資産を増やしていくことに注力すべし」という旨の言及を行い、大衆からの信頼感を高めつつ、暗に「石破さんの発言は多くの中間層から徴税しようとするもの」というレッテルを貼ることに成功しています。
そもそも石破さんの言う金融所得課税強化は、現在逆進性の高い「一律20%」という税率の是正を意図したものと思われます。これを所得税などと同じように、少しの金融所得しか得ていない人からは少しだけ、多額の金融所得を得た人からはその額に応じて課税するということです。
そうであるならば、現在SNS等で批判の声をあげている多くの人にとっては税負担は変わらないか、むしろ下がる可能性だってあるわけで、石破さんは課税強化するターゲットをどこにしているのかを明確にした上で発言するべきでした。ターゲットが曖昧であるゆえに、多くの人に「自分も対象になるのでは?」と疑念を持たせ、更にライバル候補にアピールのチャンスを与える(しかも相手は税金のプロである財務省出身者)というチョンボとなりました。
ここからはいくつかの数字を引き合いに出しながら考えてみたいと思います。
野村総研の2023年3月のリリースによれば、日本の富裕層(純金融資産保有額が1億円以上の世帯)は約149万世帯だそうです。
【野村総研リリースURL】
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2023/cc/0301_1
日本全体の世帯数は、国立社会保障・人口問題研究所の2024年4月のリリースによると、2020年時点で5570万世帯だそうです。
【国立社会保障・人口問題研究所リリースURL】
https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/t-page.asp
例えば「金融所得を年間1000万円以上得ている人に対しての金融所得課税を強化する」といえばどうだったでしょうか?金融所得とは銀行預金の利息や持っている株の配当金、株を売買した際の利益などです。一発でほとんどの庶民には関係ない話となりますので、ここまで多くの敵を作ることはありませんでした。
更にここまで言及するには、実行した場合の税収への影響などを詳細に試算する必要がありますが、「加えて、年間の金融所得1000万円以下の人は無税とする」と言ったらどうでしょう?多くの中間層がここに含まれますから、逆に石破さんにとって追い風が吹いた可能性だってあったと思います。
間違ったことは言ってないけど支持が得られない。ここでも石破さんらしさが感じられる発言となってしまいました。
実際には個人の金融所得を正確に把握して課税する方法の確立など(逆に言えばそれが難しいから今は一律20%となっている)、乗り越えなければならないハードルも多くあります。
マイナンバー(カードではなく、既に一人にひとつ付番されているもの)と金融資産を結びつけて一括で管理できるようになれば、バラバラの金融機関で所有している個人の金融所得を正確に捕捉し、課税することも可能ではないかと思います。
マイナンバーを持たない海外投資家の金融所得は?とか、そもそも海外投資家が日本に税金払ってるのか?とか検討事項はまだまだ尽きないですが、「公平な課税」を実現するためのマイナンバー活用とは?のような、国家運営に関する大局感を持った積極的な議論が繰り広げられる総裁選となることを望んでいます。