沈思黙考

日常の疑問から巡る思い

【書評/レビュー】これから自分なりに十二国記の世界を旅してみたいと思います

東京都知事選や自民党総裁選で政治関連のネタが続いてしまいました。一段落したので今回は私の好きな本、小野不由美さんの「十二国記」シリーズについて書きたいと思います。

 

十二国記は中華風のファンタジーで、巻によって戦記ものになったり、十二国記の世界に暮らす市井の人にフォーカスした内容となったり、おどろおどろしいホラー小説のようになったり(小野さんは「屍鬼」や「残穢」といったホラーものの単行本も出版しています)、シリーズのなかにいくつもの表情があるのが魅力です。

 

また、小野さんはこの世界に実際に行ったことが有るのではないか?と思うくらいの緻密な設定が随所に散りばめられているのもポイントです。天啓によって国を統べる王を麒麟が選ぶという国のなりたちや、国同士は互いに軍をもって他国を侵してはならない(覿面(てきめん)の罪といわれるものの一つで、犯せば数日のうちに王も麒麟も命を落とすと言われています)などの決まりが天によって厳格に定められています。

すごいのはこうした世界のなりたちに関する大きなところに留まらず、人々が暮らす里の区画の作り方や宮殿の建物の配置といった土木建築に関するルール、人々が成人するともらえる田畑の大きさや租税の仕組みなど、普通のファンタジーだったらそこまで設定されていないんじゃないか?と思うような部分も精緻に設定されています。そうした細やかな設定の一つ一つが、物語の世界観やそこに生きる人々をよりリアルにすると共に、目に見えるかたちとして存在しないにも関わらず、物語において絶対的な存在として君臨する「天」の存在を感じさせずにはいられないという効果を生み出しています。

そして何より、私が個人的に挙げる十二国記最大の魅力は「人生を歩む上で知っておきたい、人としてのあり方や教え(=金言)が豊かに詰め込まれている」ということです。

 

ただし、こうした素晴らしい要素をもつ作品である一方、魅力として挙げてきた内容が原因となって、あまり読書慣れしていない人が読むのは難しい、いわゆる「取っつきづらい」作品となってしまうのは否めないのかな?とも思っています。

例えば精密な描写や設定は素晴らしいのですが、それが故に物語が複雑になってしまったり(前述した里の構成や宮殿の成り立ちなんかはまさに「そんなもんなのね」と思って気楽に読み進められれば問題ないのですが、気になり出すとなかなか先に進めない)、読者が想定していないレベルの陰鬱さや狂気、ホラー要素が突然盛り込まれてついていけない(最新刊の「白銀の墟 玄の月」は、主役達の挑戦が幾度となく悪役に阻まれ、しかもその阻み方がまたとても陰鬱なので読み進めるのが苦しくなる内容のため、十二国記ファンの間でも賛否が分かれる巻となっています)といったことが発生します。

それもこれも世界観や物語が精緻すぎるからこそ生まれる副作用のようなものであり、それを理由に十二国記を読まないというのは勿体ない!と強く思います。

個人的には副読本みたいな解説をつけながら、義務教育の期間でシリーズを少しずつ読み進めていったら良いんじゃないかと思うくらいで、様々な十二国記ファンの方の書評を見てきましたが、ファンの方は皆さん十二国記への愛が強すぎるんですよね(笑)

それ故に書評も熱いというか重いというか...(汗)

 

そこで!私もそんな風にならないとは限りませんが、十二国記を読んだことの無い方に出来るだけ分かりやすく、かつシリーズの中から感じ取ってほしい金言の部分についても自分なりの解釈を交えながら書いてみたいと思います。