嵐のような衆議院議員選挙が終わりました。自民党総裁決定からの衆院解散、そして選挙と怒涛のような日程のなかにあっても大きな混乱なく選挙が挙行できる、改めてこの国の地方公共団体の力と国民の力を見たような気がしました。
選挙結果をふりかえる
さて、注目の結果ですが以前の記事で指摘したように、自民党は自公の連立でも過半数を確保できない状況となりました。
【各党の獲得議席数(カッコ内は選挙前の議席数との差)】
自民党191(-65)
公明党24(-8)
立憲民主党148(+50)
維新の会38(-5)
共産党8(-2)
国民民主党28(+21)
れいわ新選組9(+6)
社民党1(+0)
参政党3(+2)
無所属・諸派15(+1)
数字で見るとよくわからないですが、選挙前との議席数の差を割合で出すと、国民民主党が+400%、立憲民主党が+151%の増となった一方、自民党が-25.3%、公明党が-25%の減となっています。与党である自公の減少と、国民民主党の大躍進、立憲民主党の躍進が目立つ結果となりました。
「大義なき解散」に踏み切った与党は結局どうすれば良かったのか
自民党は裏金問題に端を発して岸田総理の総裁選出馬断念、選挙に勝てる顔として石破新総裁を擁立し電撃的な早さで選挙戦に突入しましたが、開票日直前に裏金議員の政党支部に対して2000万円を提供していたことが明らかとなり、元々吹いていた逆風が大暴風となって襲いかかりました。公明党もそのあおりを受けた形で、山口代表からバトンを受けた石井新代表が小選挙区で落選するという事態となりました。
新総裁のご祝儀相場のうちに選挙戦に臨んだ方が良いというのが、森山幹事長を始めとする自民党執行部の意向だったようですが、結果としてはこの判断が完全に裏目にでたと見て良いと思います。石破さんが総裁選候補時に言っていた「国民に判断材料を提供してから信を問う」ことをしていれば、結果も少し違ったかもしれません。
また、公明党も代表が小選挙区で落選というショッキングな事態となってしまいました。支持母体である創価学会の池田大作先生が亡くなって初めての大規模な国政選挙、更に石井新代表としては初陣という中で、持ち前の組織力を発揮しきれなかったと言って良さそうです。
こちらも衆院解散のスケジュールがあまりにも早く、末端の運動員まで臨戦態勢を取りきれなかったという初動の問題や、清廉な政治を求める公明党員に対して自民党の政治とカネ問題は相容れないものであり、そもそも運動員達の情熱のようなものをイマイチ盛り上げることが出来なかったことが敗因かなと思います。石井新代表は「物言う与党」として、もう少し強く自民党に浄化を求めるメッセージを出すと共に、公明党は自民党の体質とは違うというクリーンさをアピールできれば、少し違った展開もあったかもしれません。
とはいえ、石井新代表には酷な結果となりましたがカリスマ的な人気を未だに維持している山口前代表に敗北のイメージがつかなかったことは、党にとって不幸中の幸いと見て良いのではないでしょうか。次回選挙は山口前代表にも前面に立って貰いながら党勢回復に向けた戦いを挑むものと思われます。
解散には大義が必要だとよく言われます。今回の解散は、問題が発端となった自民党が勝手に作り出した大義(新総理が信を問うのは当然という大義)であり、終始自民党の内輪の論理で進んだ選挙戦だったと言って良いのではないでしょうか。となれば当然こういう結果になるのも頷けるところです。
これからどうなる?自民党
「石破さんの党内基盤は弱いものの、次の総裁は貧乏くじになる可能性が高いことから、倒閣運動は起こらないのではないか」という政治ジャーナリストやコメンテーターもいるようです。派閥という人材育成の仕組みが表面上なくなり、国民に見えやすい形で擬似的な政権交代を党内で起こすことは難しくなりました。とはいえ今回は直前の総裁選で党を二分した高市さんを中心とする勢力も存在します。しかし、難しいのは高市支持の中核を担った旧安倍派の議員達が落選しているということです。倒閣するだけの反発力を生み出せるかというそもそもの問題に加え、倒閣後の体制を見据えることが出来るかどうか、先行き不透明な状況が続きます。
そんななか、小泉選対委員長は速やかに辞任しました。不透明性を増す中で党執行部内に留まっていると身動きが取れなくなる危険性があることから、判断の遅い石破森山両氏を尻目に素早く辞任し、表向きには選挙の責任を取るという形で、泥舟化した石破執行部から速やかに距離を取ったのは、流石の判断力だと思います。
「思ったほど負けなかった」自民党。その要因は?
共に大きく議席を減らすこととなった与党ですが、個人的には「思ったほど負けなかった」という印象です。裏金問題でこれだけ注目が集まったものの、選挙当日は全国的に曇りから雨といった天気が多かったようで、投票率の伸びの鈍化に影響した可能性があります。与党としては厳しい結果を暗示する涙雨であると共に、負けすぎを防ぐ意味での恵みの雨となっていたのかもしれません。
また、電撃的な選挙により野党共闘のための候補者調整が進まなかったことも、与党にとってはプラスとなっています。立憲と維新とか、維新と国民といった形で、反与党票の受け皿となる候補者が複数立つことで票が割れ、自民党候補者が薄氷の勝利をおさめるといった選挙区もありました。この辺りが森山幹事長を始めとする自民党執行部が選挙を急いだ理由であり、今回の選挙戦においても効果を発揮したところだと思います。まして今回は最大野党の立憲民主党も、自民党総裁選の一週間前に代表戦を終えたばかりで、そこから急ピッチで野党各党と候補者調整しようとしても日数的な限界がありました。以前の記事で立憲民主党の選対に入った小沢さんの動きに注目と書きましたが、実質的にはほとんど動けなかったんだろうと思います。「小沢封じ」に成功したという意味では、電撃的な解散の効果はあったと見て良いと思います。
喜色満面の立憲、玉木さんしか見えない国民
対する野党の受け止めはどうでしょうか?
開票後の報道を見ていると、立憲民主党は野田代表個人は国民からの負託の重さを感じていたようですが、辻元さん、小川さん辺りはとりあえず選挙に勝てた、躍進できたということで喜色満面といった様子でした。今後の政局における立憲の立ち位置や、いよいよ本当に政権奪還というフェーズを想定すれば、そんなに喜んでばかりもいられない、むしろ気が引き締まるような雰囲気が党全体から感じられれば「信頼に足る野党」となれるのですが、そこまで状況を俯瞰して捉えられる人材が多くなさそうなところが、立憲に安心して任せきれないと感じさせる原因です。
また、国民民主党については終始玉木代表自らマスコミ対応を行っていました。選挙前7議席しか無かったのである意味当然ではあるのですが、28議席という大きな負託を受けたわけで、彼らが玉木さん同様の深い部分まで志を共に出来ているか、政治とカネや女性問題などが今後国民民主党から出れば、「結局国民民主党も他の党と同じか」となってしまいます。今回名簿登載者が足りず、自民・公明・立憲に1議席ずつ渡すこととなってしまいましたが、質の悪い候補をやみくもに登載するよりは良かったのではないかと思います。国民民主党としては、今回想定していた100%の議席を獲得することが出来たわけですから、全力でその負託に応えて貰いたいところです。
政局に向けた各党の動きに要注目
今後はあらゆる政策の審議が一筋縄ではいかなくなります。直近の最大のポイントは首班指名です。普通にいけば石破さんと野田さんの決選投票となるわけですが、この時の国民民主党の動きが大事になってきます。目下の状況であからさまな形で自民党につくのは、国民からの心証を悪くする可能性があるのでかなり難しいでしょう。
一方、立憲と共に政権を担う形はあり得なくはないですが、だったらなんで党を割ったんだという話と、共闘(一足飛びに連合までは難しいと思うのであえて共闘としています)するとしてもほぼ対等な形での共闘となるため、様々な政策を出していくなかで与党内での調整にいちいち時間がかかりすぎる懸念があります。それなら自民党について国民民主党の要求を自民党にどんどん飲ませた方が早いという見方も出来ます。
政局に向けた各党の動きに注目です。