沈思黙考

日常の疑問から巡る思い

「邪魔しない政治」が求められている

自民党総裁選出馬を表明した河野さん。年末調整を廃止して全員が確定申告する制度を提唱して袋叩きにあっています。石破さんに続き河野さんもか...という感じもありますが、SNSブロックに固執したり「求めてるのはそこじゃない感」が出てしまい、せっかくの突破力がマイナスに作用しているようです。

 

年末調整は確かに、企業の人事総務担当者からすれば無くなった方が良い事務といえると思います。色んな状況の従業員一人一人の証拠書類を集めて、従業員の代わりに手続きしてあげるわけですから。しかし一方で、そのお陰で多くの従業員は納税に関する負担感を軽減できるし、年に一度しかやらない事務だからこそ、手続き方法を忘れたり頻繁に変わる法律に対応しきれなかったりといったリスクを納税者一人一人が負わなくて済んでいるわけです。

それにそもそも国民が皆適正に申告できる訳がありません。普段優秀な政治家や官僚にばかり囲まれているとわからなくなるかもしれませんが、思っている以上に色んな人間がいるんですよね。自力ではとてもじゃないけど適正に申告なんて出来ない人はざらにいます。正直に言えば私だって間違いなくできるか不安です。

以前、マイナポータルから確定申告した際の感想をまとめた記事を出しましたが、あれだってクリックしていって、ここにこの数字を入れろと言われたから数字を入れて、最後にこれで良いかと確認されたけど、本当にそれで合っているかなんて正直わからない。でも指示された通り入れてるからまぁ良いんだろうってことでOKボタンを押した。そんな程度なものです。「まぁいいや」と思えるからまぁ良かったですが、中にはまぁいいやでは済ませられない人も沢山いるんです。そういう人たちはどうするか?不安を解消するために税務署や市に出向いたり、電話で問い合わせたりするわけです。間違いなく混乱します。

 

それでも年末調整という制度を廃止して新たな運用に移行する合理的な説明ができるでしょうか?年末調整制度存続以上に大幅なコストダウンが見込めるとか、正確性が爆上がりするとか、客観的にわかる形で説明できるんでしょうか?

そういう疑問の声が噴出したとき、SNSのようにブロックできるでしょうか?...究極的に言えば、政治家ってそれで良いんでしょうか?

 

経済が成長し誰もが豊かになっていく、「こうなれば良いな」と人々が思っていたものが日々実現していくような社会状況なら、その成長を全員が享受できるように積極的な政治関与が必要だと思います。でも、社会が円熟期に入り、衰退期に突入しつつあるなかで求められるのは、新たなハコモノや制度ではなく、本当に必要なものを取捨選択し、そこに特化していくことじゃないかと思います。

普通の人々が(何をもって普通と考えるかで政治的な主義主張が異なる)、安心して当たり前の生活を当たり前に送れる社会を守ることが、政治に求められる役割ではないかと思います。

 

安定飛行の石破さんと、またしても隙のない小林さん

自民党総裁選立候補者の石破さんが、自らが総理総裁となった暁には金融所得への課税を強化すると表明し、裏金対策のトーンダウンに対する落胆の声続き、各方面から批判的な声を受けています。

 

「貯蓄から投資へ」という掛け声のもと、政治主導で国を挙げて投資を推進し、新NISAやiDeCoなどの新制度によって、これまで投資には縁がなかった人達を投資の世界に引きずり込んでいます。岸田さんが同様の主張をした前回総裁選の時以上に、金融所得に関する当事者が増えているという状況下で、金融所得課税強化への言及は慎重に行うべきでした。案の定「取れるところから税を取るつもりか」とか、「庶民を見ていない」といった批判が噴出しています。

小林さんはそうした声を瞬時に察知し、「中間層の資産を増やしていくことに注力すべし」という旨の言及を行い、大衆からの信頼感を高めつつ、暗に「石破さんの発言は多くの中間層から徴税しようとするもの」というレッテルを貼ることに成功しています。

 

そもそも石破さんの言う金融所得課税強化は、現在逆進性の高い「一律20%」という税率の是正を意図したものと思われます。これを所得税などと同じように、少しの金融所得しか得ていない人からは少しだけ、多額の金融所得を得た人からはその額に応じて課税するということです。

そうであるならば、現在SNS等で批判の声をあげている多くの人にとっては税負担は変わらないか、むしろ下がる可能性だってあるわけで、石破さんは課税強化するターゲットをどこにしているのかを明確にした上で発言するべきでした。ターゲットが曖昧であるゆえに、多くの人に「自分も対象になるのでは?」と疑念を持たせ、更にライバル候補にアピールのチャンスを与える(しかも相手は税金のプロである財務省出身者)というチョンボとなりました。

 

ここからはいくつかの数字を引き合いに出しながら考えてみたいと思います。

野村総研の2023年3月のリリースによれば、日本の富裕層(純金融資産保有額が1億円以上の世帯)は約149万世帯だそうです。

野村総研リリースURL】

https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2023/cc/0301_1

日本全体の世帯数は、国立社会保障・人口問題研究所の2024年4月のリリースによると、2020年時点で5570万世帯だそうです。

【国立社会保障・人口問題研究所リリースURL】

https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/t-page.asp

例えば「金融所得を年間1000万円以上得ている人に対しての金融所得課税を強化する」といえばどうだったでしょうか?金融所得とは銀行預金の利息や持っている株の配当金、株を売買した際の利益などです。一発でほとんどの庶民には関係ない話となりますので、ここまで多くの敵を作ることはありませんでした。

更にここまで言及するには、実行した場合の税収への影響などを詳細に試算する必要がありますが、「加えて、年間の金融所得1000万円以下の人は無税とする」と言ったらどうでしょう?多くの中間層がここに含まれますから、逆に石破さんにとって追い風が吹いた可能性だってあったと思います。

間違ったことは言ってないけど支持が得られない。ここでも石破さんらしさが感じられる発言となってしまいました。

 

実際には個人の金融所得を正確に把握して課税する方法の確立など(逆に言えばそれが難しいから今は一律20%となっている)、乗り越えなければならないハードルも多くあります。

マイナンバー(カードではなく、既に一人にひとつ付番されているもの)と金融資産を結びつけて一括で管理できるようになれば、バラバラの金融機関で所有している個人の金融所得を正確に捕捉し、課税することも可能ではないかと思います。

マイナンバーを持たない海外投資家の金融所得は?とか、そもそも海外投資家が日本に税金払ってるのか?とか検討事項はまだまだ尽きないですが、「公平な課税」を実現するためのマイナンバー活用とは?のような、国家運営に関する大局感を持った積極的な議論が繰り広げられる総裁選となることを望んでいます。

 

小林さんの政策集団発言を考える

小林さんが派閥に対する考え方について問われた中で「政策集団として存続するのは問題ない」という旨の考え方を示しました。

個人的にもこの考え方には賛成です。どんな人であれ3人集まれば集団が出来るとも言われるなかで、政治的な目的(日本はこうありたい、あるべきだという強い思いを個々の政治家には持っていてほしいと思いますが)を持った人々が集まれば、思想が比較的近い人同士で集まっていくことは自然な流れであり、それを規制する方がかえって大変だと思います。

ただ問題は人が集まる派閥という組織のことではなくて、派閥が中心となって行っていた政治資金パーティーにおける不透明な会計処理などによって作られた裏金を巡る収受についてです。収入と支出が明確にされていれば、例えば大口の企業献金を受けていたって何ら問題ないと思っています。政治には金が必要ですからね。

問題の核心に迫り、効果的な対処を行うことを国民の前でアピール出来るかどうか。候補者個人はそれぞれ非常に優秀ですから、どうすれば国民の支持を得られるかはわかっているんだと思います。ただ、今までのルールで利益を得ていた人達とのしがらみもあり、そこまで踏み込んだことは言えないというのが現実ではないでしょうか。

 

出馬表明の熱狂が落ち着き始めた小林さん。小泉さんが出馬表明すれば報道では脇役に追いやられてしまうことは確実ですから、小泉さん出馬表明前に何かインパクトのある訴えをしておく必要があります。

裏金問題への対処でぶちあげるのが一番インパクトは大きいと思いますが、そこまで出来ないのであれば特定の政策で(石破さんは台風が迫り、防災の関心が高まるなかで防災省?を提言しましたが、屋上屋感は否めず、国民もほぼスルーで不発に終わりました。防災の課題は中央の組織体系ではないことはみんな何となく感じている中、そこを持ってきちゃう辺りが石破さんのズレというか、理想主義者らしい認識の隔たりのようなものを感じました。「石破さんらしさ」が感じられて、ある意味良かったとも言えます。)、何か小林さんらしさを出していく必要があります。地方の党員票を意識するなら高齢者対策や地域活性化、次の次を見据えた戦いと割りきって、中長期的に腰を据えて支持を得るならサイレントマジョリティがいる子育て対策辺りでしょうか。将来の日本を守るという視点に立てば、人口減に歯止めをかけるための少子化対策も外せないところだと思います(少子化対策と子育て対策は密接に関係していますが、厳密には別物です。例えば、子育て対策で手当てを出せば子供が増えるかと言われれば、そういう訳ではない(子供を産もうと思えるほどの手当てを出すことは財源的に不可能)ことは実感いただけると思います)。

個人的には小泉さんが裏金対策については一番インパクトのある主張をしてくると思っていて、小林さんの支持基盤には渦中の安倍派議員が多くいることもあり、裏金対策で小林さんが主張するのは難しいと思います。裏金対策は後ろ向きという評価を受けない程度で対応しつつ、例えば国防について、高市さんの主張が際立つと思いますが、将来的な連携も見据えて国防論について高市さんと論調を合わせておくのもいい戦略だと思います。

いずれにしても小林さんとしては早く派閥、裏金以外の論点を見つけ、国民にアピールする必要があると思います。

 

自民党総裁選の序盤動向を読む(8)どこよりも早い投票予想 候補者調整シナリオ

自民党総裁選について、前回の記事で候補者が乱立するシナリオを検討しました。目下のところ議員達は決選投票にどの候補が残るか、そして残った候補のうちどちらを推せる(投票できる)か、「推しの子」探しに躍起となっているように見えます。

 

さて、今回は前回記事で指摘したもうひとつのシナリオである「候補者調整シナリオ」について考えていきます。

こちらのシナリオに展開していくためには二つの条件があります。

【条件1】立候補を目指す候補者たちのうち、20人の推薦人を集められないケースが複数人で発生する。

【条件2】推薦人を集めて候補者として立候補した後、何らかの形で決定的な支持の差が明確化する。

 

まず、条件1について。

現時点で立候補を目指しているとされる候補者候補は11人から12人いると言われています。そのうち小林さん、石破さん、河野さんは立候補を表明済みです。小泉さん、高市さん、林さん、茂木さん辺りは近々立候補表明を予定しています。逆に言うと残りの候補、具体的には上川さんや齋藤さん、野田さん辺りは推薦人確保に苦戦していると言われています。こうした候補者たちが立候補を断念すると同時に、誰を支援すると表明するのかによっても総裁選の展開は左右されていきます。

上川さんは同じ岸田派出身ということで林さん、女性活躍といった視点から高市さん、ウルトラCに近いですが大宏池会構想具現化の第一歩として河野さんなど、比較的どの候補も支持表明しやすい立場にいると考えられます。最終的に林さんも総裁選当日まで残れなければ、先に上川さんが支援表明している候補を支援することで岸田派として再結集という展開もあり得ます。

条件1によって立候補者が8人前後に絞られた後、更に条件2が発動します。

現時点で一番実現可能性が高いシナリオは、小泉さんの出馬表明前までに立候補表明した各候補の主張に対し、小泉さんが「裏金政治をぶっ壊す」と、父である純一郎さんを彷彿とさせるワンイシューに持ち込んで、民意をガッチリと掴むというシナリオです。こうなると、刷新の小泉VSその他守旧勢力となってしまい、総裁選期間中にマスコミ露出することが長期的な視点で見たときに不利に働くことも懸念されます。また、総裁選までもつれ込んだとしても、推薦人の数(20)よりも議員得票が少なくなるような結果となっては、後の政治家としての存在感にも悪影響が出てしまいかねません。こうした懸念を回避しようとする勢力(基本的には弱小勢力から順番にということになると思います)が、総裁選出馬継続を断念して、他候補の支持に回る(勝ち馬に乗る)展開です。

この他にも政治資金や女性問題等のスキャンダルが出る、上記シナリオとは逆に小泉さんの出馬表明会見が全くの不発に終わる等、今後の展開はまだまだ不透明ですが、これらの事象により候補者数が更に絞られて4人程度となれば、決選投票までもつれ込まずに一回目の投票で決定という可能性もあり得ます。

 

今後も引き続き総裁選動向に注目していきたいと思います。

 

自民党総裁選の序盤動向を読む(7)どこよりも早い決選投票予想 候補者乱立シナリオ

ここまで連載で自民党総裁選について考えてきました。候補者の顔ぶれや基本的なスタンスなどが見えてきたので、現時点での総裁選予想をしておきたいと思います。

まず、大きく二つのシナリオが想定されます。ひとつ目は、このまま報道通りに候補者が乱立するシナリオ。ふたつ目は候補者間で調整がなされ、出馬を取り止めて他の候補者の支援に回る形で候補者が整理されるシナリオです。

 

ひとつ目の「候補者乱立シナリオ」の場合。

一回目の党員票+議員票で過半数をとるのは難しくなり、議員投票のみの決選投票となる公算が高くなります。決選投票に誰が残るのかという点について。

一人目は「小林さん」です。今回選ばれる総裁で総選挙を戦うことになりますから、まずは選挙で勝てる顔を選ぶのが投票権をもつ議員や党員の基本的な戦略です。小林さんは若く、経歴も華々しい。マスコミ等への対応もそつなく、事務所経費不記載についてもほぼ無風で乗り越えつつあります。刷新感をもたらす顔として党員からの支持も集められそうです。議員票のほうは、裏金議員を多く抱える旧安倍派が支持基盤の主体となりますが、「誰が支持しているのかはっきりしないけど、多くの議員から支持されている」という状態で総裁選まで突入出来れば、そうした議員達の受け皿になれるので広く支持を集められます。逆に小林さんが裏金議員を束ねているような世論形成がなされ、小林さん支持=裏金容認みたいなラベリングをされてしまうと党員票も集めにくくなり、議員票も逃げていく可能性があります。

二人目は出馬会見の出来次第という但し書きつきで「小泉さん」です。世襲議員なので刷新感は小林さんに及びませんが、小林さんよりも更に若いということでそちらを全面に押し出して「生まれ変わった自民党」を演出することが可能です。自身の発信内容が「ポエム」「進次郎構文」と揶揄されることもありますが、それが幸いしてといいますか、世間から致命的な不興を買うような政治的活動はありません(レジ袋有料化は国民の多くに「めんどくさいな」という印象は植え付けましたが、「そのせいで生活できない」とか「自分の情報が知らないうちに誰かにわたってしまいそうで不安」みたいな感情を与える事業には関与していない)。

党員票は若さと、悪目立ちする政治的実績が無いことにより一定程度集めることが可能です。議員票も菅さんのバックアップのもと、無派閥勢力を派閥のように結束させて支持基盤としています。裏金議員に気を使う必要がない基盤を確保できているので、出馬会見で「裏金議員は公認しない」とか「刺客候補を出して総選挙で民意を諮る」等とぶちあげれば、世論を巻き込んで決選投票無しに、一気に決着をつけることも可能だと思います。そのシナリオについては後述します。

さらに当初30日を予定していた出馬会見を9月6日に後ろ倒し出来たことも、他の候補者と横並びでマスコミの前に露出する機会を減らすことができるため、小泉さんにはプラスに働きます(小林さんと小泉さんが生出演して政策を語るみたいな番組をやられると、小林さんと小泉さんの発言内容の差が明確になってしまうため)。

 

長くなってきたので二つ目の「候補者調整シナリオ」は次の記事とします。

 

自民党総裁選の序盤動向を読む(6)石破さんは「嫌われ続ける力」が足りない

先日立候補を表明した石破さん。今回が5回目の挑戦となります。「三度目の正直」という言葉がありますが、1回目、2回目の失敗を乗り越えて創意工夫を重ね、いよいよ3回目に物事を成したときに使われる言葉です。過去を振り返りご本人の言う「集大成」としての言動を期待していましたが、残念なことが起こりました。

 

裏金議員への対応について、立候補宣言時は「厳しく臨む」と明言したのに翌日には「新体制になったら決める。予断をもって言うべきではない」と一気にトーンダウンしました。

裏金についての疑惑があった議員は80人近くいます。それに対して「厳しく臨む」と明言することは、彼らからの支持は得られなくなることを意味するというのは、小学生でも丁寧に説明すればわかるレベルのことだと思います。それをあえて明言したところに個人的には期待感を持っていました。さらに言えば、それを明言しても総裁選に勝てると認識している=それだけ裏金疑惑のない議員達の支持を固められているということだと思って、少し驚いてもいました(これだけの乱戦模様なので「勝てる」と思えるだけの票をまとめるのはかなり大変だと思っていたから)。

ところがそれをたった一日で自らひっくり返してしまったのです。考えられる理由としては次の通りです。

1そもそも「厳しく臨む」という発言がそこまで大きな反発を生む発言だと思っていなかった。

2それなりに反発を生む発言だと覚悟した上で発言したものの、こんなに大きく報じられ、ここまで反発が出ると思っていなかった。

3国民感情に同調する形で、有耶無耶にすることはできないという意味(何らかの検討はするという意味)で発言した「厳しく臨む」が厳しい処分を下すという趣旨にとらえられてしまったことに慌てて軌道修正しようとした。

 

1であれば、言葉を生業として言葉で人々を巻き込んでいく政治家という職業はふさわしくないと思います。自らが発する一言一言に日頃から神経を集中させる、ましてや「厳しく臨む」と発言したのは自身の立候補宣言時ですから、言葉の端々にまで全神経を集中させてしかるべき場面です。その時に世間の受け止め方を全く読み違えた発言をしたということになりますから政治家にはふさわしくない。

2であれば、政治家でありながら同じ政治家の気持ちすら理解できていないということになりますから、そのような人のもとに優秀な人が集まってくるとは考えにくい。更に、覚悟をもった発言だったとしても、一日で翻せるような覚悟しか持てないのであればやはり政治家にはふさわしくない(そういう意味では、反対の大きな声がありながらもワクチン接種やマイナンバーカードを推進する河野さんの実行力は高く評価されるべきだと思います)。

3であれば、一国の代表が務まる器ではないと思います。総理となれば一挙手一投足が常に注目され、ふとした発言が大きなインパクトを持つことだってあります。もし総理になったあとに、今回のように思惑と違うインパクトを与えてしまったとき、石破さんがどのような行動をとるのか、今回の件で露呈したように思います。恐らく朝令暮改的に反射的に打ち消しにかかる。それでは迷走と揶揄された岸田さんと同じです。「すぐに打ち消されるかもしれない」と思ったら、その下で仕事をする人たちは梯子を外される可能性に怯えながら仕事しないといけなくなってしまうので、仕事に没頭することができません。

 

個人的には3の可能性が一番高いかなと思っていますが、一連の動きを通して言えることは「石破さんは嫌われ続ける力」が足りないということです。

嫌われるというのは、相手が「これはやってほしくない」と思うことを徹底的にやるから嫌われるんだと思います。その相手からは嫌われますが、その相手のことを嫌っている人からは逆に熱烈に好かれたりするわけです。

今回の場合に当てはめると、石破さんと裏金議員と国民が登場人物です。石破さんは裏金議員に対して「厳しく臨む」と発言しました。裏金議員達は当然嫌がるけども、裏金議員を厳しく処分してほしいと願う国民からは評価されました。ところがすぐに自身の発言をトーンダウンさせてしまう。こうなると裏金議員達は「とりあえず良かった」と思いますが、だからといって石破さんをすぐに積極的に応援する勢力になるかといわれれば当然そんなことはありません。いつまた裏金議員達を攻撃してくるかわからないですからね。そして、一度は石破さんを評価した国民は「やっぱり石破さんは自分達の期待する行動はとってくれない」と応援するのをやめてしまう。こうして石破さんの周りには誰もいなくなる。

敵の敵は味方」という言葉もある通り、敵をひとつに定めてずっと敵対してくれていれば、その姿勢を高く評価する人も現れるわけです。自民党をぶっ壊すと言って総裁の座を射止めた小泉さんはまさにそのやり方でした。郵政民営化でも反対勢力を敵と定めて、刺客候補まで送って国民の思いに応えることで人気を維持してきたのです。

 

「集大成」として今回の総裁選に臨む石破さん。最初からこの調子では先が思いやられると感じるのは私だけでしょうか。

 

自民党総裁選の序盤動向を読む(5)河野さん立候補 初動の早さで票をまとめきれるか

河野さんが自民党総裁選に立候補しました。正式な立候補表明は小林さん、石破さんに続いて三人目となります。

小林さんは一番に立候補表明することで、この土日の報道系テレビ番組をジャックすることに成功し、課題とされる知名度向上に成功しました。また、様々な質問に対してもそつなく受け答えし「安定感」を示すことにも成功しています。注目を浴びるようになったからこそ、事務所経費の不記載問題なども報じられてしまいましたが、金額が小さいことと、普段自分が使っている事務所を選挙事務所として登録する、自分で自分に貸す手続きの中での不記載ということで悪質性が高いとは受け止められていなさそうということで、総じて初動の早さでプラスの効果を得ていると思われます。

 

河野さんは知名度も実績も十分ですから、初動を早めてメディアジャックするなどのインパクトを求める必要はありません。今後候補者が出揃った段階で堂々と自身の政策や国家感をアピールして評価を受けるということになりそうです。であれば個人的には立候補のタイミングはもう少し後でも良かったのではないか?と思ってしまいます。

立候補が他候補より先行しすぎると、政策を深堀りされたり、スキャンダルを狙われたりする期間が長くなってしまうからです。また、立候補の瞬間は比較的期待感や熱量が高い状態となりますから、終盤で立候補し勢いそのままに総裁選に突入するという手法も考えられました。立候補が早すぎてインパクトを残せない期間が長くなると、推薦人や世論の下支えも間延びしてしまいます。また、実績があり立候補を待望される人物であれば、あえて立候補表明を遅らせることで「焦らす」こともできます。周囲から待望論があがり、日に日にその声が大きくなりついに終盤に決意を固める形で立候補すれば熱気は最高潮です。河野さんが早めの立候補に踏み切った背景には、党内情勢がそういう状況にはならない。むしろ早い段階から立候補して熱心に各地を回り、自身の言動で支持を集める方が当選の可能性が高いと判断したからなのだと思います。

 

初動の早さを活かし、各地を回って自身への支持を固められるか。その進捗次第でキングメーカーであり、所属する派のボスである麻生さんからの支援の形も多少違ってくるのでは?と思います。

河野さんの状況をとらえるには、麻生派の動きに注目するのが良さそうです。